[会員インタビュー]
2016年08月10日
第1回 会長 大島敏子さん「看護管理者のセカンドキャリア・デザイン」
このブログでは、フリージア・ナースの会の会員のキャリアライフヒストリーのインタビューを掲載していきます。聞き手は事務局のNPO法人看護職キャリアサポートの濱田安岐子です。
第1回 会長 大島敏子さん「看護管理者のセカンドキャリア・デザイン」
はじめに(濱田安岐子)
近年の全国的な看護師不足に対して、離職対策のほか、潜在看護師の掘り起こしや養成施設の増設などが推進されています。また、同時に2025年問題を見据え、団塊世代の大量退職による人材不足を補うため、看護協会では定年退職などによる看護職の再就業支援として、厚生労働省の看護職員確保特別事業により神奈川・奈良・兵庫の3県看護協会が協力しモデル事業が実施されました(2004年2〜3月)。事業内容は主に、セカンドキャリアを迎える世代に対する研修事業と広報活動でした。その事業は現在、ナースセンターによる資格登録制度や職業紹介などで継続されています。
今回、私がセカンドキャリア(定年退職後のキャリア)に注目したのは、もちろん臨床現場の人材不足のこともありますが、特に管理職や教育職として看護に多くの貢献をされてきた方たちが、定年退職後、どうしたら元気にキャリアを歩んでいけるのかということを考えたからです。臨床で多くの看護職をマネジメントし、また看護職を育成し社会に輩出するという、社会に多大な貢献をした看護の管理職や教育職の方々がいます。私には「この方たちの定年退職後は、人材不足を補うための雇用という道しかないのだろうか」という思いがありました。そこで、人材不足を補うため自分の体力と相談しながら仕事を続けると共に、たまには同じように社会貢献をしたいと思える仲間と交流しながら、楽しく充実した場所にしてほしいと思い「フリージア・ナースの会」の提案をしました。フリージアの花言葉は「未来への期待」です。セカンドキャリア(定年退職後のキャリア)の看護師たちの活動が看護の未来につながっていくようにと考えました。
本連載では、看護職のセカンドライフを社会貢献につなぐ活動を行う「フリージア・ナースの会」の代表を含め、会員として第二の人生を輝かせる看護管理職の皆さんにインタビューを行い、現役を引退した後にどのように過ごしているのか、現役の看護管理職はどんな準備をしておいた方がよいのか、また、今だからこそ分かる現役看護管理職に伝えたいことなどを“ざっくばらん”に紹介します。大先輩方へのインタビューで、大変恐縮してしまうのですが、チャレンジ精神で進めていきます。
初回のインタビューにご協力いただくのは、NPO法人看護職キャリアサポートの顧問であり、今回立ち上げたセカンドキャリア支援事業「フリージア・ナースの会」の会長も引き受けていただいた、大島敏子さんです。
臨床現場で培った影響力を眠らせるのはもったいない
濱田:現在、大島さんは、フリーなお立場でNPO法人の顧問や研修講師、看護コンサルタントとして全国でご活躍されていますね。大島さんにとっての第二の人生は、神戸大学医学部附属病院の副院長・看護部長からのご引退(2012年3月)後から始まっているかと思いますが、このフリージア・ナースの会で会長として進めている、看護管理職が第二の人生で実現していく社会貢献はどのような形で考えていらっしゃいますか?
大島:もともと、看護管理職はたくさんの知識、技術を持っている職種で、現場ではさまざまな人に対して影響を与えてきました。その、現場で培ってきた影響力を、リタイアしたために活用できなくなることはもったいないと思っています。そこで、フリージア・ナースの会を発足させて、かつて看護管理職だった方たちに、社会貢献をしていただきたいと思っています。社会貢献は、その知識や技術を活かしていくことが大前提になっています。
例を挙げるならば、看護教育や医学教育の中で求められている、模擬患者の役割があります。コミュニケーションや診断をするプロセスを学生さんたちに体験してもらうため、患者になりきることで、患者を理解することに長けている看護師たちの経験を活かしたいと思っています。
患者とのコミュニケーションでは、患者が話を間いてもらえたと思えることが必要です。模擬患者となることで、そうした通常では直接的に伝えてもらえないことをフィードバックすることができます。ほかの例としては、マンションの住民に対してAEDの使用法を指導している方もいます。また、私自身は、地域の中で療養支援や相談窓口として、老老介護であっても長く自宅で療養生活が送れることを支援しています。
多くの引退された看護管理職の方たちは、地域の中で健康にかかわる情報提供を求められる機会があると思います。現在、政府の考え方では2025年に向かって在宅で過ごすことを勧めているわけですから、より長く地域で過ごせるような支援ができたらよいと思います。在宅で過ごしている時というのは、状況がその時々で変化するものですから、より身近で、気軽に相談に乗り、アドバイスをすることができる存在になれたらと思っています。ある元看護部長は、毎朝近所の方と一緒に体操をして、地域で健康を維持することを支援しています。これはすなわち、地域のナースステーションとして住民の健康管理をするということです。毎朝、顔を見ることにも意味があり、たまに血圧を測るなどして、コミュニティづくりをしているそうです。
濱田:いま、近所づきあいが積極的にできず、コミュニティがつくりにくい時代になっていますが、そういうことに看護管理職がかかわっていくということですね。
大島:そうです。もうすでに、私の周りではそういうことが求められています。私の住んでいる地域は、老老介護でも地域で住みきることを目指しているので、元気なご婦人がホームヘルパーのサポートを進めていて、1週間に1回、2時間だけ支援する仕組みができています。1時間700円の料金で地域サポートをしていますが、その内500円を支援の対価としてヘルパーに、200円分を運営に活用しています。家事労働を必要とするお宅に伺うとさまざまな相談があり、健康にかかわることについては、私がアドバイスをしています。こうしたことが、長く在宅で生活できることにつながります。訪問看護や地域でできる介護支援の情報を提供できるのは、地域の病院で看護管理を務めてきた看護管理職の利点でもあります。このようなことを、全国のあちこちですでに行っている方たちと組織化して、拠点を持って連携していくことができれば、社会で必要とされている在宅療養の支援を進めることになり、医療萱の削減や地域住民の負担軽減にもつながります。だから、フリージア・ナースの会でやりたいと思っているのです。
濱田:こういう地域の相談支援システムというのは、現在進められている地域包括ケアシステムにおける地域包括支援センターの役割ですよね。でも、在宅で生活している高齢者にとっては、地域包括支援センターは相談場所としては少しばかりハードルを感じるというか、労力がいるかもしれませんね。それよりは、看護職をしていたご近所さんに気軽に相談できた方がうれしいですね。
大島:「昔ナース」っていうマークがあってもいいですよね(笑)。
濱田:それがフリージア・ナースですね(笑)。
看護管理者の本質は社会貢献にある
大島:フリージア・ナースは、フル稼働で活躍する看護管理から身を引いた方々が、少し空いた時間を使って「自分がやってもいいな」「自分が役に立てるのであれば」といった形でできることが前提になります。しかし、そういう少しの活動ができるフリージア・ナースが増えれば、看護職集団としての社会貢献につながっていくと確信しています。
濱田:それって、私にとっては凄いことのように思えるのですが、大島さんはどうしてそういう風に思えるようになったのでしょうか。看護管理職が生涯その資格を活かし続けることの中に社会貢献というものがあると思うのですが、長く、とても大変な臨床現場を守ってきた方々が第一線を退いた後に、さらに社会貢献をしようと思えるというのはどういうことなのでしょうか。
大島:演田さんには凄いことに思えるかもしれないけれど、そもそも看護協会の認定看護管理者制度というものが、社会貢献をすることのベースになっていると私は思っています。認定看護管理者が自律して行動していれば、その後どう活動していけばよいかが見えてきます。環境を健康的に改善するための貢献が看護管理です。個人の幸せ、その集まりが地域の幸せになり、国全体の幸せになります。看護管理者がそういった国全体の幸せに貢献することが、若い看護師たちにしてあげられることでもあると思っています。いま、臨床で頑張って働いている看護師たちに対し私たちのような活動を知らせることで、将来的に看護職として社会貢献ができることを先輩として示していきたいと思っています。
看護管理者として広井視野を持って行動する
濱田:看護師って、きつくて大変な仕事というイメージが強いですよね。でも、看護の本質は違います。それを社会に発信する人が少ないのではないかと思います。
大島:私もそう思います。忙しいし、政府が進める制度に対してやらされ感が強いと思います。でも、いま進んでいる地域包括ケアシステムは看護が目指してきたことです。看護にとっては追い風なのです。自宅で生活したいと思っている患者たちを帰したいと思っていた看護師の気持ちを、国が支援してくれているのだと思っています。そして、地域の中で支援しようとしている私たちと、臨床現場で頑張っている看護管理職とが連携できるようにしていきたいと思っています。私にできることは、地域を育てていくことです。
社会の変化というのは、人口動態を含めて社会保障と絡めて考えていく必要があり、そうした広い視野を持つことで自分が看護管理者としてするべきことが見えてくると思います。つまり、自分自身で制度を作っていく必要があるのです。しかし幸いなことに、今、政策として看護職が望んでいたことが実現しようとしています。ですので、その中で自分がどの立場で何をしていくのかを考えることができます。
濱田:ということは、今、現役の看護管理者が広い視野で社会保障制度を見つめながら、管理的視点でやるべきことをやっていれば、将来的に社会貢献をすることの準備になるということですね。
大島:そのとおりです。
看護師が他者のために行動することはすべて看護である
濱田:今、現役を引退した看護管理者たちは、大島さんのように現役の看護管理職を支えたいとか、社会貢献をしたい、あるいは、する必要があると思っているのでしょうか。そういった、フリージア・ナースの会の会員になってくれるような方々はいらっしゃるのでしょうか。
大島:う〜ん。いったん組織を離れた管理職たちは、もう一度、積極的に組織に所属しようとは思わないかもしれません。自由な時間を手にした方たちは、このフリージア・ナースの会の会員になることで、制約を受けることになるのではないかと思うでしょう。ですから、その自由を保持したまま、ほんの少しの時間を社会貢献につなげていくという形をとればよいのだと思います。負担にならない、自分のしたいことをする、それが後輩とのつながりを持つことであると認識できれば、会員になってくれる方はいると思います。まずは、こういう会が存在することが大事なのだと思います。退職後の数ヶ月は自由になって解放感がありますが、やはり何かしたくなってしまうのが看護管理者だと思いますから。
濱田:それでも、地域医療への貢献とか、過去に看護師であったことを公言して健康相談を受けることなどが大きな負担になる方もいるかもしれないですよね。
大島:ええ‘しかしそれは、看護をどのようにとらえるかということだと思います。私の知っている方の中には、看護管理者であったことを公言はしつつ、観光客の写真撮影をお手伝いするシャッター係をしている方もいます。濱田:私にはよく理解できないのですが、写真撮影のシャッター係をすることが看護管理者としての価値にどうつながるのでしょうか。
大島:観光客の思い出づくりという幸せに貢献しているのであり、それが、看護管理者としての価値になると思っています。自分がしたいと思う、できることを継続していくことが看護管理者としての価値を高めるからです。
濱田:それが、看護をどのようにとらえるかということでしょうか。
大島:そのとおりですね。彼女は仕事をしていないことに後ろめたさを感じていたようなのですが、私は「あなたは十分に看護をしている」と伝えました。看護師が他者のために行動するとはすべて看護であると私は思っています。地域で生きていくこと、近所の方とコミケーションをとるだけでも看護ですよね。
濱田:そうか!看護管理職の経験を持つ方が他者のために動いた時点で、それは看護になるということなのですね。
大島:そうです。そんな気持ちで活動できフリージア・ナースが増えていけばよいと思っています。
インタビューを終えて(濱田安岐子)
今回は、フリージア・ナースの会の会長で ある大島敏子さんにインタビューさせていただきました。すでに引退後の社会貢献に取り組んでいる元看護管理職の方々がいらっしゃることに感動しました。フリージア・ナース
としてそうした活動を行うことで、生涯、輝き続けることができるような支援を、看護職キャリアサポートのセカンドキャリア支援事業として考えていきたいと思います。
この記事は日総研出版のナースマネジャーVol.16 No.6に掲載したものです。日総研さんのご協力のもと、ホームページへの掲載が実現しました。